先日、GRIT(やり抜く力)の本を読みました。
読んでいくうちにタイトルの仮説を思いつきましたので、順を追って説明します。
GRITとは
GRITは「情熱と粘り強さで物事をやり抜く力」で、高いGRITを持っている人は、学業やスポーツなどで大きな成果を挙げられることが研究の結果から明らかになっています。下の動画で、著者のアンジェラ・リー・ダックワースさんが説明しています。
テスト結果が低かったが、ゲームの場合は高い私
自分はどれくらいなのかと思い、”GRITスケール(書籍ではグリット・スケール)”というGRITを測定するテストを行いました。
テストは5点満点で10項目について評価して平均を取るのですが、私は3.3しかなく、サンプル値のアメリカ人の成人パーセンタイルで下位30%と知ってガッカリしました。コーチングのプロ、つまり行動と継続のプロのはずなのにクライアントに顔向けできませんマジで…。
意気消沈も甚だしい結果ですが、気づいたことがあります。私はゲームが趣味なのですが「ゲーム、特にドラクエに対しては非常に高いGRITを持ってプレイして結果を出している」ことです。
具体的な例としては、「ドラゴンクエストXI(PS4)」でトロフィーコンプリートしており、すべてネットで調べずに独力で達成しています。さらに、ラスボス戦で最大ダメージを検証、文字の解読も行い、ゲームの世界であるロトゼタシア中にある看板やポスターを読んだり、呪文のエフェクトがきっちり作り込まれている(例:ザオラルとザオリクで魔法陣の文字が違う)ことも突き止めました。詳しくは下表参照。ドラクエXやドラクエウォークの文字も同じなので読めます。
また、発売3ヶ月前に父が肺炎で命に関わるほどの症状でICUに入院(ECMO使用)し、手続きを始め、日用品の供給や洗濯物運びなどをしましたが、運良く回復したので退院日をソフト発売日の2日前に私が独断で決め、万難を排してプレイに臨みました。
他のゲームでも、「モンスターハンターワールド(PS4)」では、ぼっちなので(重要)ソロプレイのみでHR100を達成したり、「HORIZON ~ZERO DAWN~(PS4)」でのトロフィーコンプリートを達成(ゲーム本編より訓練がメチャクチャ難しい)しました。
ゲームは本当に好きで、ひとつのゲームにつき数百時間使って隅々までプレイしています。したがってゲームに関しては、確実にGRITを持ってプレイしていて、かなり極まっているのではないかと思います。
ちなみに、ドラクエに絞ってテストしたら4.6でした。アイデア→ミニゲーム、プロジェクト→ボス戦、重要な課題を克服するために、挫折を乗り越えた経験→ドラクエIIクリア(ロンダルキアにたどり着いた復活の呪文を間違えて絶望、3ヶ月挫折してから再開後クリア)と読み替えました。
対象によって評価が変動する可能性を利用する
以上のことを踏まえると評価が低くなった要因として、テストの表にプロジェクトという言葉が出ていて仕事のことを考えながらテストを行ったことや、自己評価なので厳しくなったこと、仕事に関してはまだ途上なので「全然やりきれていない」という思いがあったためではないかと分析しています。
したがって、自己診断におけるGRITスケールの結果は、主観的な要素も大きく、対象となるテーマ(仕事・学業・趣味)によって数値が変動するのではないかと考えています。
一見テストに欠陥があるように思えますが、これはプロコーチの私にとっては喜ばしいことです。なぜなら「ゲームで発揮するGRITを仕事で応用できたら?」「ゲームと仕事の違いは?」という問いによって、気づきを得て前に進めるリソースにすることが可能だからです。
GRITに必要な4つの要素
書籍ではGRITを身につけるために重要な要素について、下の4つを挙げています。
1.興味
自分のやっていることを心から楽しんでこそ「情熱」が生まれる。私がインタビューをした人びとはいずれも、自分の仕事のなかで、あまり楽しいとは思えない部分をはっきりと認識しており、多くの人はちっとも楽しいと思えないことも、少なからず我慢していた。とはいえ全体的には、目標に向かって努力することに喜びや意義を感じていた。だからこそ彼らは、尽きせぬ興味と子どものような好奇心をもって「この仕事が大好きだ」と言う。
2.練習
「粘り強さ」のひとつの表れは、「きのうよりも上手になるように」と、日々の努力を怠らないことだ。だからこそ、ひとつの分野に深く興味を持ったら、わき目もふらずに打ち込んで、自分のスキルを上回る目標を設定してはそれをクリアする「練習」に励む必要がある。自分の弱点をはっきりと認識し、それを克服するための努力を日々繰り返し、何年も続けなければならない。また、「やり抜く力」が強いということは、慢心しないことでもある。分野を問わず、どれほど道を究めていても、「やり抜く力」の鉄人たちは、まるで決まり文句のように「なにが何でも、もっとうまくなりたい!」と口にする。
3.目的
自分の仕事は重要だと確信してこそ、「情熱」が実を結ぶ。目的意識を感じないものに、興味を一生持ち続けるのは難しい。だからこそ、自分の仕事は個人的に面白いだけでなく、ほかの人びとのためにも役立つと思えることが絶対に必要だ。なかには早くから目的意識に目覚める人もいるが、多くの場合は、ひとつのことに興味を持ち続け、何年も鍛錬を重ねたのちに、「人の役に立ちたい」という意識が強くなるようだ。「やり抜く力」の鉄人のなかでも、成熟をきわめた人たちは、みな口を揃えて同じことを言った。「私の仕事は重要です。個人的にも、世の中にとっても」
4.希望
希望は困難に立ち向かうための「粘り強さ」だ。本書では、興味、練習、目的のあとに希望を採り上げるが、希望は「やり抜く力」の最終段階だけでなく、あらゆる段階に欠かせない。最初の一歩を踏み出すときからやり遂げるときまで、ときには困難にぶつかり、不安になっても、ひたすら自分の道を歩み続ける姿勢は、はかり知れないほど重要だ。私たちはときに大小さまざまな挫折を経験して、打ちのめされる。打ちのめされたままでは「やり抜く力」も失われてしまうが、立ち上がれば、「やり抜く力」を発揮することができる。
本の中では主に仕事や学業、スポーツに焦点を当てて語られていて、残念なことにゲームはテレビなどと並び、GRITの醸成を妨げる「誘惑」のひとつに挙げられています。これについて次の項で異論を提示したいと思います。
ゲームが教材として最適な可能性を持つ理由
ここで仮説として「ソーシャルゲーム以外のゲームをプレイすることが、GRITを身につける上で最適な教材である」ことを挙げます。この仮説を裏付ける理由について、上の4つの要素を軸とした考察を示します。
1.興味
例外はありますが多くの場合において、ゲームそのものが面白く、興味や好奇心をそそられる対象となります。また、ゲームをプレイする行為自体が快楽を伴うので、情熱を持ち、最後まで興味を失わずにプレイできることが大半です。
また、練習、目的、希望にも関係しますが、作り手の努力によって飽きずに、つまり興味を持ち続けて最後までプレイできる仕組みが整っています。「このゲームが大好きだ」という言葉はゲーマーなら当たり前のことで、私の例を見てもよく分かると思います。
2.練習
ゲームをクリアするためには、練習あるいは経験が必要です。特に近年のゲームは最初のハードルが低く、徐々に難易度が高くなるようにデザインされており、コツコツと努力した結果として、確実に上手になったり、強くなったりする構造になっています。
また、ゲームにはレベルを設定されているものも多く、戦闘回数などの経験値を増やすことによってレベルが上がります。これは数値で示されるもので、費やした努力(練習)を可視化する指標になります。つまり、練習によるスキルアップを可視化された状態で経験的に学ぶことができます。
3.目的
果てしなく続くソーシャルゲームを除き、通常PCやコンソールのゲームにはクリアしてエンディングを迎えるという明確な目的が存在します。また、多くのゲームでトロフィーやクエストといった、ゲームクリアに直接関係ない目的が提示されます。
他にもレベルを上げる、新しいアイテムを手に入れるといった目的を自発的に設定することも可能です。このような目的によって、最後まで飽きずにやり続けることができる構造になっており、やり切る力に対する実感を伴った自信を培うことができます。
また、マルチプレイに対応したゲームでは、他のプレイヤーと協力することも可能です。自分がハイレベルのプレイヤーである場合、レベルアップの手伝いやクエストのクリアなど誰かをサポートすることができ、本に挙げられている「役に立ちたい」という目的を果たすことができます。
4.希望
リアルな人生において、未来は不確定で予測不可能なため、希望を持ち続けることが困難な場合が多くあります。ところが、ゲームの場合は必ずクリア条件があり、エンディングがあります。したがって、大抵の場合「プレイし続ければクリアできる」ことは確実で、このことはゲームプレイに消えることのない希望をもたらします。
希望は「他の3つの要素に対する期待」だと考えていますが、ゲームの場合を詳しく見てみると、これらの期待を下に示すように満たすことができます。
- 面白い・楽しい(興味に対する期待)
- 強くなれる・上手になれる(練習に対する期待)
- 達成できる・クリアできる(目的に対する期待)
また、例を見てわかるように、希望は「可能性に対するポジティブな予測」と言えるでしょう。このような「やればできる」という感覚は、本書でも触れられていますが、著者の指導に当たったポジティブ心理学の第一人者、マーティン・セリグマンの提唱するオプティミズム(楽観主義)を育むのに有効だと考えます。
楽観主義は、人が経験を通じて自分自身への説明スタイルを身につける結果として醸成されますが、悲観主義の人も経験あるいは訓練によって楽観主義に変わることが明らかになっています。
さらに、ゲームは安全でチャレンジングな場をプレイヤーに提供します。ゲームの世界では、リアルのプレイヤー本人に対し「物理的に傷つかない、死なない」という心理的安全が絶対的に保証されているので、粘り強く目的を達成するための練習場として最適です。ただし、プレイヤー同士の人間関係で傷つくことはありますが、これはリアルでも同様です。
オススメの方法は独力でやり込むこと
ゲームでGRITを養う方法は、好きなゲームをクリアまではもちろん、最大レベルまで上げ、スキルを全開放し、アイテム、サブクエスト、ミニゲーム、トロフィーをコンプリートするなど、とことんやり尽くすことです。また、基本的にネットの情報や周りの人に頼らず、独力でプレイすることも重要です。
例えば、ドラゴンクエストXIの場合、クリアすることは難しくありませんが、クエストを始め、カジノやウマレース、ボウガンアドベンチャーなど、やりこみ要素が満載なので、独力で制覇するのはかなり大変です。
マルチプレイ対応ゲームの場合は、ソロのみで強くなるまでプレイしてから、マルチプレイで成果を試す方法をオススメします。こちらも例を挙げると、モンスターハンターワールドでHR100は極端ですが、HR20くらいまではソロで頑張ってから、マルチプレイで初心者をサポートすると、誰かの役に立つことで自信が付くでしょう。
ゲームで手に入れたGRITを学業や仕事に応用すればOK
ゲームをやり込んで楽観主義やGRITが身についたら、他の場面でも試してみましょう。ポイントは問いを立てたり、ゲームで得た自信を思い出すことです。
「勉強をゲームにするとどうなるか」「仕事上のタスクがクエストだとすると、最速でクリアするにはどの順番がベストか」「レベルアップに必要なスキルは何か」とか、「ドラクエXIをトロコンした自分ならやれる!」「マルチで活躍したから仕事でも同僚をサポートできる!」などなど、応用が可能なのでいろいろとやってみましょう。
まとめ
実は以前から「漫画やアニメの設定をすぐ理解したり、ゲームをやり込んだりできるオタクは有能」というガチオタク有能説を持っていて、どんな形で出すか考えていました。そこにオプティミズムやGRITの概念が加わって、今回このような形で実を結びました。
今回は具体例としてわかりやすく、私が好きなゲームを軸として構成しましたが、私が声を大にして言いたいのは「ひとつでも好きなものを極めたオタクは強い!」ということです。
先日17歳で棋聖のタイトルを取った藤井聡太七段も、将棋が好きすぎる将棋オタクのプロゲーマーだと考えています。インタビューなどを見ていると、将棋を指すことが大好きなのが伝わってきますよね。
私もゲームとアニメとお酒の次くらいにコーチングが好き(率直さと誠実さがウリです)なので、ゲームで鍛えたGRITを応用して、コーチングをさらに極めていきたいと思っています。あとブログも。
オタクの皆さん、好きなオタク活動でGRITを培って、人生の荒波を乗り越えていきましょう!非オタの人も学業・仕事・スポーツなど、好きなことを頑張りましょう!
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