以前、読書猿さんの芋づる式読書マップの本をまとめました。
この中で下の本が気になったので、読んでみようと思ったら新品がありませんでした。
中古を買おうかどうしようか迷っていたところ、新しく出版されたものがサジェストされたので、えーい!ままよ!と思って注文しました。
最近、独立してから10年以上経ち、お陰さまで仕事が順調に回り始めて、できて当たり前になってきました。手を抜くわけではありませんが、正直なところ少し退屈を覚えるようになってきたのも事実で、先人が乗り越えてきた労苦や努力、自由への熱望を追体験することで、向上心を再びチャージし、初心を取り戻すべくこの本を読もうと思いました。
内容ですが、著者のフレデリック・ダグラスが、19世紀初頭のアメリカで奴隷として生まれてから起きた出来事や自身の行動を記憶を頼りに、自由を手に入れるまでを詳細に記述しています。奴隷と言っても、当時のアメリカでは主人と奴隷との間に生まれた子供は奴隷として扱う決まりがあったため、父親は白人で、母親はアフリカ系(黒人)の今で言うところのハーフあるいはダブル(呼び方ひとつで4倍!)です。
彼の身の回りで起きた出来事は、とにかく凄惨の一言に尽きます。ただし、本人は冷静に極めて淡々と記述しており、文中に詩的な表現が多少あるものの、ほとんど感情的な表現は見られません。むしろ冒頭の支援者による序文や書簡のほうが感情的なほどで、その対比が起きた内容の凄まじさを際立たせています。
ある日、奴隷を持ったことのない主人の元に行くことになり、主人の妻から文字を教わることになりますが、主人が妻に教えるのをやめさせた一連の出来事をきっかけに、何も知らないでいることが奴隷を奴隷たらしめるとフレデリックは気づきます。
その後、主人が文字を教えてくれなくなったので、どうしたかというと、近所に住む白人の少年たちと親しくなり、腹を空かせた彼らにパンを与える(幸い主人は裕福で食料はたくさん与えられていた)ことで読み書きを教えてもらい、7~8歳から12歳くらい(で本を入手)に掛けて習得します。
それからさらに紆余曲折を経て、南部から北部に逃れて自由の身となるわけですが、この記事のタイトルは、彼の残した言葉に集約されています。(Wikipediaより引用)
「ひとたび読むことを学べば、永遠に自由となるだろう」
フレデリック・ダグラスという人物が、聡明であることもさることながら、とんでもなく記憶力が良いことが記述からわかります。月日の概念を覚えるまでの幼少期は何かが起きた日の曜日を、文字を覚えて、月日を覚えてからは日付と曜日を記していて、さらに関わった人物の名前もおそらく正確に覚えていることが伺えます。
この能力の高さが、生得的でもしも父親から、つまり彼の主人(白人)からくるものだとしたら、いわば奴隷制度そのものが、フレデリック・ダグラスという「選ばれし者」をこの世に遣わしたことになり、恐るべき運命のいたずら、あるいは起こるべくして起きた必然、パンドラの箱に潜む希望といった混然とした何かを感じさせます。
フレデリック・ダグラスがジョジョの奇妙な冒険(ジョジョ)第三部の主人公、承太郎よろしく、危機に直面した状況でも「やるときはやる」気概や、どんなときにもアイデンティティを失わない姿勢に、ジョジョでいうところの「黄金の精神」を見ました。
彼とその支援者のような行動の積み重ねで、権利として(少なくとも日本では法的に)自由を保証された世界の上に今の私たちは立っているわけですが、彼らが持っていた「黄金の精神」を、確実に次につないでいくため、少しでも力を尽くたいと感じた次第です。
余談ですが、あとがきによると、本書は専修大学のプロジェクトで翻訳が行われたそうで、多くの人が関わっているので、まとめるのが結構大変だったようです。また、理解を助けるために、文中に[]で補完していますが、なくても文脈で理解できるので個人的には必要ないと感じました。ただし、文章は読みやすかったのと、訳者まえがきと訳注が充実しており、地図と凡例もあるので、背景の理解をしつつ読むことができる良書だと思います。
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