今回は「オプティミストはなぜ成功するか」を紹介します。原題は”Learned Optimism”で「学習性楽観主義」のような意味です。
1.オプティミストとペシミスト
著者の研究結果から、人はテストによってオプティミスト(楽観主義者)とペシミスト(悲観主義者)に分かれることがわかっています。下の引用で違いを見てみましょう。
ペシミストの特徴は、悪いことは長く続き、自分は何をやってもうまくいかないだろうし、それは自分が悪いからだと思い込むことだ。
オプティミストは同じような不運に見舞われても、正反対の見方をする。敗北は一時的なもので、その原因もこの場合だけだと考える。そして挫折は自分のせいではなく、そのときの状況とか、不運とか、ほかの人々によるものだと信じる。オプティミストは敗北してもめげない。これは試練だと考えて、もっと努力するのだ。
挫折の原因を考えるとき、どちらの見方をするかによって結果が変わる。数百例の研究結果から、ペシミストのほうがあきらめが早く、うつ状態に陥りやすいことが証明されている。
また、これらの実験から、オプティミストのほうが学校でも職場でもスポーツの分野でも、良い成績を上げることも分かっている。オプティミストは適性検査でも常に予想よりも高い点を取るし、選挙に出ればペシミストよりも当選する可能性が高い。健康状態も良くて、上手に年を取り、生活習慣病にかかる率もかなり低い。平均よりも長生きするという推測さえも、ある程度の根拠がある。
これだけでもペシミストだと損じゃん…と思いますが、さらに驚くことに、ペシミストは無力感を学習して(つまり後天的に)身につけることが、動物および人を対象にした実験で明らかになっています。
ただし、逆もしかりで、ペシミストも訓練でオプティミストになれるというのが本書のキモであり、一度身についたら永続的に失われないことも挙げられています。
2.説明スタイルで判別可能
オプティミストかペシミストかどうかは、不幸な出来事をどう自分に説明するかという「説明スタイル」で判別ができます。説明スタイルは3つの要素に分けることができ、それぞれ下のようになります。
- 永続性:永続的(悲観的) ↔ 一時的(楽観的)
- 普遍性:普遍的(悲観的) ↔ 特定(楽観的)
- 個人度:内向的(低い自尊心) ↔ 外向的(高い自尊心)
例:テストで悪い点を取った場合
ペシミストの説明
「このまま悪い点を取り続る(永続的)だろう。私は馬鹿(普遍的)なのに、努力が足りなかった(内向的)。」
オプティミストの説明
「今回はたまたま点が悪かった(一時的)。問題が難しかった(特定)し、勉強する時間がなかった(外向的)。」
上は両極端な例ですが、説明スタイルによって物事の捉え方がずいぶん変わることがわかります。
3.テストを受けてみよう
本書には楽観度を測るテストがありますので、ぜひ受けてみてください。子供向けのテストもあります。
私も受けてみましたが、永続性がかなり悲観的で、普遍性と個人度が楽観的でした。また、やや希望度が高く、総合評価がやや楽観的でした。
PmB:5・PmG:2
PvB:1・PvG:5
HoB:6
PsB:1・PvG:6
G-B:6
自分自身で基本的な性格がネガティブで内向的なのはわかっていて、経験を積んで楽観的かつ外向的になってきた自覚があり、判定がかなり正確だと思いました。人生は運ゲー(特定・外向的)と思っていて、何事も期待せずに世界を眺め(永続的)、行動し続けていこう、というポリシーにも一致しているような気がします。
また、本書にはうつ状態を調べるテスト(大人用・子ども用)も用意されており、うつ状態とわかったら、認知療法を受けるか、下のABCDEモデルを使ってペシミストからオプティミストになることを推奨しています。
余談ですが、テストについては問題数が多いのとパラメータが複数あり、メモと集計が非常に大変だったので、気が向いたらWeb版を作ろうと思います。
4.ABCDEモデルでオプティミストに
この本の優れている点は多くの研究書にありがちな、ただ説明があるだけでなく、対処法について書いてあることです。ノートに下の5つの事柄を記録して、思い込みに反論し、元気づけを行うことが有効です。
- Advarsity:困った状況
- Belief:思い込み→状況に対して自分に説明する
- Consequence:結果→何が起こったか
- Disputation:反論→思い込みに対する反論(証拠事実・別の考え方・状況の意味)
- Energization:元気づけ→反論を受けてどうなったか、今後どうするか
補足:日本人には反論(議論)が難しいので代替案
本書では、誰でも議論したことがある前提でABCDEモデルを提唱していますが、これは欧米文化での話で、学校教育にディベートの訓練がない上に「和をもって尊しとなす」という社会的なバックグラウンドを持つ我々日本人には反論の部分がピンと来ず、難しいかもしれないと思いました。
特に後ろの方にあるパートナーに協力してもらう批判については、慣れていない人がほとんどのため、相手が本気でなかったとしても心が完全に折れて好転どころか絶望に至るケースもあるのではないかと懸念しています。
そこで、批判の部分はカットして、反論の部分を日本人にフィットするように置き換えることを提案します。具体的には、反論を「同じ状況の友人に対する客観的アドバイス」にするとうまくいくのではないかと思います。
なぜかというと、反論を行う目的は悲観的な思い込みに対して、客観的な事実を認識したり、状況の意味に気づいたり、別の考え方などを身につけることです。アドバイスの対象を自分から友人に置き換えることで、客観的に状況を見ることができます。これはコーチングで思い込みを外すために行っている、視点の変更あるいはリフレーミングと呼ばれる手法と同じで、実際に効果があります。
また、問題(困った状況)の対処については副読本として「問題解決大全」をオススメします。リフレーミングはもちろん、他の様々な問題解決方法について網羅されている最強のフレームワーク集です。
まとめ
海外の研究者が書いた本でよくある、ひたすらエビデンスを積み重ねていく形式のため、冗長に感じるかもしれませんが、内容については心理学の歴史的名著に匹敵すると思います。
理論だけでなく、テストや対処方法についても網羅されているので、学習性無力感やオプティミズム、ペシミズムについてはこの一冊でOKです。この記事では触れませんでしたが、責任感についてや悲観主義のメリット、ABCDEモデルの例、個人主義の拡大によるうつの蔓延などについても触れられており、ほとんど隙のない内容になっています。
ひとつ文句を言うならば、真っ当かつ実用的な心理学書であるのにも関わらず、タイトルがなんで安っぽくて煽り感満載なのか理解に苦しみます。原題直訳のほうが売れると思いますが、この本が売れてはいけない理由があるんでしょうか。ノート一冊でうつ病が治ると精神医りょ…おっと誰か来たようだ。
コーチングを仕事にしている私個人としては「サピエンス全史」より衝撃を受け、ここ10年で読んだ本の中でベストに挙げたいくらいで、もっと早く出会えなかったことが悔やまれます。
コーチングやカウンセリングを行うすべての人と、子供を健やかに育てたい人、人材の育成に携わる人はもちろん、落ち込みやすい人や自分を変えたい人にも読んで頂きたい一冊です。超絶にオススメします!!
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