最近、主にTwitterで表現の自由についての議論などを眺めるにあたり、基礎となる哲学や思想の教養が足りていない、というかほとんどないと痛感する日々です。
ところで先日、哲学専攻の友人とSkypeで雑談をしていて、ヴィトゲンシュタインの「論理哲学論考」をオススメして頂き、岩波文庫版がスタンダードのようですが、Kindle Unlimitedに光文社版があったので、読んでみました。
本書の特徴は、本文の前に解説があり、本文の後に歴史的な背景がわかるようにヴィトゲンシュタインの年譜が掲載されていることです。また、2014年に刊行されているので、推測ですが岩波文庫版より訳が現代的になっていると思われます。
本文ですが、センテンスごとに数字を振ってあり、階層および入れ子の構造になっています。例えば、1から始まって、1.1と続き、さらに1.11、1.12と前の数字(1.1)に従属する内容が列記される、独特の記法で書かれています。
2項の途中まで読んで、内容がかなり抽象的で、入れ子の構造を視覚化しないと理解するのが厳しいと感じたため、Webページで入れ子構造を視覚的に表示することを思いつき、写経も兼ねてやってみました。結果が下のスクリーンショットです。
※著作権的にアウトなので、個人で利用するにとどめ、公開および頒布はしません。
Web化について
Web化について、わかる人向けに説明すると、HTMLでリストを表示する<li>タグを利用して、ナビゲーション(メニュー)の要領で階層構造を記述し、リストをCSSでブロック化(li{display:block;})して、階層ごとに色分けしています。
実は、入れ子を色分けする方法は、以前制作して公開済みの「コーチング質問集」で実装済みなので簡単にできました。
VSCodeでコーディング
制作にはMicrosoftの「Visual Studio Code(VSCode)」を使いました。高機能かつ無料で使えるコードエディタです。
HTMLの入力を支援する、Emmetも当たり前のように使えます。元々ガチのプログラム用のコードエディタなので、階層の表示・非表示の切り換えも可能で非常に便利です。置換も普通にできるので、誤字などの修正作業も楽でした。
下のスクリーンショットがHTMLの編集画面です。16行目のulタグを畳んでいます。
数式もJavaScriptで表示可能
途中でいきなり加算の式(Σ)が出てきて発狂しそうになりましたが、WebでTeXを記述するためのMathjaxというJavaScriptの表示エンジンがあり、これを利用することですることで事なきを得ました。
HTMLに下の2行を<head></head>の中に書き加えることで、利用可能です。
<script src="https://polyfill.io/v3/polyfill.min.js?features=es6"> <script id="MathJax-script" async src="https://cdn.jsdelivr.net/npm/mathjax@3.0.1/es5/tex-mml-chtml.js">
文中に表示する場合、バックスラッシュ付きの括弧”\(“~”\)“で囲うことで、囲った文字列が記法に従って表示されます。段落の場合は”$”~”$”で囲えばOKです。
IT系のコミュニティサイト、QiitaでもMathjaxが採用されているので、記法については下のチートシートが大変参考になりました。
ということで、数式の表示例が下のスクリーンショットです。
ついでに、WordPressでのバックスラッシュの表示については、下の通りアルファベットのフォントに変えればOKのようです。
<span style=”font-family: Arial;”>\</span>
図はInkscapeで描いて表示
クックックッ…これですべて再現可能…!と、安心したのもつかの間、今度は図が出てきて、危うく絶望して闇落ちするところでした。仕方ないので、Inkscapeで描きました。
特に、下の斜めの括弧を気が狂いそうになりつつ、頑張って位置合わせして描いたので見てください。
これで、ほぼ完全に書籍の内容(論考本文のみ)をWebページに再現することができました。最近は何時間も連続で文字を打ったことがなかったため、肩が凝って大変でしたが、最後までやり遂げて、見直しと修正も行いました。
感想
徹底的に論理を追求した場合、そこに主体(主観?感覚?神?)の入り込む余地はなく、したがって心理的な言葉はすべてノンセンスであると、身も蓋もないようなことが数式や真理値表、図も交えてひたすら厳密に述べられている、と私は解釈しました。
(「私は」って書いたから間違えてもノンセンスなので許してもらえる、はず)
また、従来の(ヴィトゲンシュタイン以前の)論理学では、命題の真偽に主観が入り混じっていたことを批判し、現在に通じる記号論理学の整理をした歴史的な偉業のプロセスをたどることができ、その息遣いが感じられます。
後半はプログラミングやコンピュータの構造的な部分(代入・くり返し処理・ドット表示など)を予見するような記述があり、ゾクゾクしました。コンピュータは数値計算はもちろん論理演算もできる装置なので、論理を追求するとおのずと導かれるかもしれない、ということに思いを馳せると胸が熱くなります。
彼ら先人たちの世界の延長線上に、いま我々が立っていて、日常的に論理演算装置たるPCを使っていると考えると、もうたまりません。
たまたまWeb化の作業中に下の記事を読んだので、感動も割増しです。
あとがきに述べられていますが、ヴィトゲンシュタインの思想には、余分なものを徹底的に排除した、シンプルの美学といったものが通底しているように私にも感じられました。
気になった点は、内容には関係ありませんが、やたら漢字を使わずひらがなで表記されていることで、「なにか」「つぎ」「あらわす」「かんする」「たいする」「しめす」など、全部ひらがな表記なので、写経の際に変換してしまい打ち直す場面が多数ありました。
アプリオリやメルクマールなど、私にとっては未知の単語が多発し、フレーゲやラッセルなど先人の主張を前提としているため、都度調べながら読み進めないといけない、歯ごたえのある本でした。
また、本書のように頭を使う本は脳がフレッシュな若いうちに読んでおきたかったと思いました。Web化と見直し修正作業でざっと2周読みましたが、多く見積もって半分程度の理解だと思うので、ゲームのように周回プレイで何回も読んで、なんとか本質を8割くらいは理解できたらと思います。
論理を極めたい方、現代論理学の成立プロセスを知りたい方、コンピュータサイエンスを歴史を踏まえて極めたい方はもちろん、フェミニストで論理が若干苦手な方にもぜひ読んでいただきたいです。
Web化も実装と見直し・修正で少なくとも2周できて、理解がより深まる(気がする)ので、技術(HTML+CSS)と環境(PC+エディタ)が整っていて、時間と根性のある方にオススメします。
2020年9月現在、光文社古典新訳文庫がKindle Unlimitedの読み放題対象になっているので、古典を読みたい方にオススメです。下のバナーから30日間無料体験できます。
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